(3)
階段の一番下でオルフェウスは別の入り口にはいった。彼は荒れ果てた地に足を踏み入れた。散乱した岩や成長の止まった木々といったうらさびしい光景が広がっていた。彼の前を流れるのはアケローン川だった。すべては暗く、ひっそりとしていて、命を感じさせるものはなかった。
彼は川岸にもやってあるボートに近づいた。ボートに座っていたのは死者の国の渡し守カロンだった。
カロンはオルフェウスを見て首を振った。生者は川を渡ってハーデースへ行くのを禁じられていたのだ。そのときオルフェウスは歌をうたった。そして音楽は渡し守を魅了した。カロンはオルフェウスを手招きし、川の向こう岸へ運んだ。
対岸で待っていたのは番犬のケルベロスだった。犬の3つの頭部は訪問者に向かって激しく吠えたてた。しかしまたしてもオルフェウスは歌をうたい、進むのを許された。彼はなおもうたいつづけ、ハーデースの宮殿(冥府)へと近づいていった。
冥界全体に歌は響き渡った。そのパワーはすさまじく、岩を山の上に押し上げていたシーシュポスも動きを止め、岩の上に座って聞き入ったほどだった。ブドウを手に取ろうとするが、届かずに苦しむタンタロスも音楽に聞きほれた。黄泉の国の死者たちも音楽に夢中になった。何百もの亡霊がオルフェウスのまわりを飛び回り、不気味にざわめいた。
冥府に入ったオルフェウスは、黒檀の王座に座ったプルートーとペルセポネーに会った。ハーデースの支配者たちは彼をにらみつけた。オルフェウスは臆せず、かれらに挨拶をした。
プルートーは彼に何が望みかとたずねた。オルフェウスは、エウリュディケの運命を覆すことはできないものかと懇願した。生者の国へ戻すことはできないかとたずねたのである。
はじめハーデースの支配者たちは彼の要求を拒んだ。しかしオルフェウスが歌をうたうと、かれらの心はなごんだ。彼といっしょにエウリュディケが戻ってくることが許された――ただし条件付きで。彼女はオルフェウスのあとを追っていかねばならなかった。そして彼は上部の世界に到達するまで、彼女のほうを向いてはいけなかった。もし振り向いたら、ただちに彼女の猶予期間は無効になるというのだ。
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