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 ふたりの従者をつれてアポロニオスはアンティオキアを出発した。(ひとりは速記者、もうひとりは書家だった。旅をしながら彼が考えたことを記録するのがふたりの主な役目だった) 彼の七人の弟子たちはアポロニオスとともに行きたいと思い、懸命に説得を試みたが、彼の返事はつれないものだった。「おまえたちの心は強くない。だからここで別れを告げたい。私に関していえば智慧と守護神が導いてくれるから大丈夫だ。神々がわがアドバイザーであり、神々の言葉を頼りにしていくつもりである」

 しかしシリアのヒエラポリスを通るあいだにダミスという名の若い男が旅に加わった。「いっしょに行きましょう。あなたは神のあとを追っている。ぼくはあなたのあとを追う」とダミスは言った。彼はアポロニオスの第一弟子となり、同時に彼のボズウェル(伝記作家の代名詞的存在)となった。

 アポロニオスはガイド兼通訳のダミスとともに東方へ旅をつづけた。まもなくして彼らはローマ帝国とパルチア王国国境のユーフラテス川に着いた。国境税関の官吏は申告するものがあるかどうかたずねた。

「穏健、公正、美徳、節制、勇気、忍耐」と彼はこたえた。

「あんたはこの従僕たちを登録しないといけないな」官吏は女性形の名詞を奴隷の名と勘違いしてそう言った。

「それはできません」アポロニオスは言った。「国境の向こうへ連れていこうとしているのは従僕ではありません。わが師匠たちなのです」

 アポロニオスとダミス、ふたりの従僕は川を渡り、バビロンへ向かって旅をつづけた。駆られはバビロンに十八か月とどまった。その期間中彼はマギ(祭司)から宗教を学び、神秘主義カルトのイニシエーションを受けた。また彼は国王からの信任を得た。ピタゴラス主義のライフスタイルについて説明し、統治のアドバイスを与え、魂の本質について論じた。それはとても啓蒙的だったので、国王は死を恐れなくなった。

 ふたたび旅をはじめる時がやってきた。国王はアポロニオスにラクダと食糧、ガイドを与えた。そして国王は哲学者がインドからどんなおみやげをもってくるだろうかとたずねた。

「王様、すばらしい贈り物がございます」アポロニオスはこたえた。「もしこれら賢人たちとの出会いによって私がより賢くなるなら、戻ってきたとき、私はいまよりもよい人間になっているでしょう」

「ただ戻ってくるだけでいいぞ」国王は涙を流しながら彼を抱き寄せた。「それが最高の贈り物だ」

 アポロニオスはバビロンを出発した。今度はラクダとともに。先頭のラクダには国王の保護を示す記章がつけられていた。


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