(4)
案内人が突然恐怖におののきはじめた。というのも賢者の住む場所に近づきつつあったからである。そこに住む賢者たちは、地元民から畏怖と戦慄で見られていた。
突然若い男が走って彼らのもとへやってきた。彼は黄金の小枝、すなわち使者の象徴をもっていた。旅人に近寄りながら彼はギリシア語であいさつあした。そしてアポロニオスひとりで来てほしいと言った。
「なぜならあの方々自身があなたを招いたからです」
従者とダミスを置いてアポロニオスは使者のあとをついていった。ピタゴラス主義者として訓練したように感情を抑制していたが、目に見えて興奮していた。
使者は雲に覆われた丘へ彼を連れていった。霧は深かったが、丘の頂上だけは見えた。使者に導かれて雲の中に入り、門の前に出た。
そこから賢者の住む場所へ彼らは下っていった。
薄暗いトンネルの中を彼らは進んでいった。傍らに井戸があり、そこから青がかった光が出ていた。炎のクレーター(許しの炎)である。雨の壺と風の壺(天気に影響を与えるため賢者たちが使った)。さまざまな偶像(インド人、エジプト人、ギリシア人の神々)。ガイドのあとについて、まるで遊園地のビックリハウスの中を進むかのように、アポロニオスは慎重に歩いた。
彼は賢者たちが住む場所のメインホールにたどりついた。
賢者のうちの18人が輪になって座っていた。彼らは長老で、ターバンをかぶり、ひげを生やしていた。またチューニックを着ていて、片方の腕と肩がむきだしになっていた。それぞれが杖を持っていた。アポロニオスが入ってくると、何人かの賢者は立ち上がり、前に出てきて彼を抱擁した。
賢者の長であるイアルカスは玉座に座っていた。彼はアポロニオスにギリシア語であいさつをし、紹介の書簡を見させてくれないかとたずねた(千里眼を持つ彼はあきらかに内容までは読みとれていなかったが、その存在には気づいていた)。アポロニオスは書簡を彼に手渡した。
イアルカスは書簡を読むと、わかったというふうにうなずき、彼がここに来た理由をたずねた。アポロニオスは満足のいく回答を返した。イアルカスはほほえみ、彼を日々の儀礼に招いた。
「さて」とアポロニオスは言った。「ここに来るまでに通ったカフカスやインダスを私は不当に評価しているに違いない。あなたの儀礼を目撃していないからね」
賢者たちは立ち上がり、清めの部屋へと進んだ。アポロニオスは彼らのあとをついていった。この部屋で彼らは沐浴し、花輪で自分たちを飾り、唱和した。
歌いながら彼らは一列縦隊をつくり、寺院のなかに入った。祭壇の上には火が燃えていた。その前に彼らは集まり、杖で床をたたきはじめた。
アクロバット・マジックショーの一団みたいに、賢者たちは一、二メートルの高さの空中に浮いた。
アポロニオスはこの光景を見て仰天した。彼らは空中浮揚し、神々への賛歌をうたっているのだ。
それから彼らはホールへ戻り、それぞれの座席についた。そしてイアルカスはアポロニオスが持ついかなる疑問点にも答えようと申し出た。「なんでも聞いてください」と彼は言った。「すべてのことを知っているマスターたちのもとへあなたは来られたのですから」
「自己知識というものをお持ちですか」アポロニオスはたずねた。
「もちろんですとも」イアルカスはこたえた。「われわれはすべてを知ることができます。なぜなら自己を知ることによってはじめるからです。でなければ哲学的知識を求める旅には出ないのです」
美徳や魂の本質、ホメロスなどの話題に触れながら、長い会話はつづいた。このあとには晩餐が開かれた。
アポロニオスは賢者たちと四か月を過ごした。その間に彼は賢者たちの教義を学び、智慧を吸収した。ダミスもまた哲学講義や寺院の儀礼に参加することが許された。賢者たちの空中浮揚を目撃し、目が飛び出るほど彼は驚いた。
アポロニオスにとって出発する頃合いだった。イアルカスは彼のためにラクダとガイドを用意した。そして七つのヒーリングの指輪を贈った。それぞれが惑星と週の曜日に対応していた。
十日後、アポロニオス一行は海に達し、バビロン行きの船に乗った。
⇒ つぎ