(4)
あるはずの森が消えていた。そこに森はなく、畑と家々があるだけだった。家の煙突からは煙が出ていた。近くには年老いた羊飼いが家畜の世話をしていた。
ヘルラ王と騎士たちは馬に乗ったまま彼に近づいた。羊飼いはうつろな目で彼らのほうを見た。
「おまえは王様がわからないのか」ヘルラ王は言った。「おまえはわが王国の忠誠を誓った臣民ではないのか。挨拶をせよ、羊飼い。わたしはヘルラ王であるぞ!」
「王様」と羊飼いは言った。「おらはなんとかあんたの言葉でしゃべっております。おらはサクソン人で、あんたはブリトン人ですから。ヘルラって王のことはよう知りません。名は聞いたことはあります。そんな名のブリトンの王がおったという伝説はありますだ。小人といっしょに洞窟に入っていったとか。ですが行ったきり、王が地上に戻ってくることはなかったという話です。でもだいぶ昔のことです。おらたちサクソン人がやってきて、ブリトンのやつらは追っ払いましたからな。この土地に来てからもう三世紀ちかくになりますかな」
ヘルラ王の目は驚きで開きっぱなしだった。「三世紀だと!」彼は叫んだ。「われわれにとってはたった三日にすぎぬ。いったいどうしたことだ? どんな魔法がかけられたというのか? この洞窟で浮かれている間にだれかが呪文でも唱えたのか?」
ちょうどそのとき騎士のひとりが馬から降りた。と、その瞬間、彼の体は砂塵となって崩れ落ちた。
ヘルラ王は警告の言葉を思い出した。「馬から降りるな」と言われたのだ。彼は騎士たちに叫んだ。「この犬が地上に飛び降りるまで待て。さあ、乗ったままで待つのだ。犬が降り立つまで!」
そして彼らは雷のごとき蹄の轟を残して走り去った。
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