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 当惑したシーボーンは話題を変えようとした。

 習慣やマナー、表面的な感情について話せば話すほど、この真に覚醒した男の評価が下がることに気がついた。そこでわたしは役に立つ知識の獲得に話題を変えようとした。そしてこのテーマに関しては明らかな利点を持っているので、上っ面の世界に生きる人々を思慮深い高みに上げることができると確信した。 

 シーボーンは郷土の人々が作った値の張る衣服や装飾品を自慢した。農民の二年分の収入に相当する優美なカシミア・ショールについて語った。美しく装飾された金銀の品を絶賛した。

最高人はこのテーマについてもはやわたしの言うことを聞こうともしなかった。それらは、意味のない戯言、むなしい作り話、だまされやすい意志の弱い愚か者だけが信じる有害な話、情け深い神から賜った、こじつけ能力であると、彼は言い放った。 

 またもシーボーンは話題を変えようとした。最高人に印象づけることができると確信した彼は、地表人が獲得した軍事能力について話をした。弾薬を発明したことや、強力な戦艦を作り出したことについて述べた。それによって軍隊を輸送したり、敵を征服したりすることができるようになったと説明した。

 わたしが言及したなかで、この話題はもっとも居心地の悪いものになってしまった。称賛するどころか、彼はわたしの話を疑っているようだった。彼のような外見のしっかりした者が、互いに執拗に攻撃したり、殺し合ったりする忌まわしい爬虫類のように、下劣でいやらしい情熱に支配されるとは思いもしなかったようである。 

 最高人との会合が終わりに近づいたとき、シーボーンは要望を伝えた。より安全な場所に船を係留してもらい、好ましい季節の間に、家路につく旅に出られないか、というものだった。シムゾニアの指導者は許可を出した。しかしシーボーンの船員が船上に残ることが条件だった。

 我々の感情と習慣は十分にわかっていたので、われらの側の人間と自由に交流することが、最高人のモラルと幸福を危険にさらすことを知っていた。 

 残りの日々、要望は確約されていて、彼が興味を持つような話題はどんなものでも情報として提供された、たった一つ、防御エンジンを除いて。そしてシーボーン船長は別れを告げることになった。

 つづく何か月もの間、名士たちと話すことができた。最高人とももう一度会った。そして日々の活動をおこなうシムゾニア人を観察した。覚醒した人々の生き方を学んだ。彼らの食べ物と衣服の好みは簡素だった。誰もが白いチューニック(ガウン)を着ていた。貪欲と自分勝手は、彼らの間では知られていなかった。そのかわり善行は、現実的な最大の満足だった。シムゾニア人努力して他人のために尽くそうとした。経済システムが必要になる場所では、分別と正義があった。税金は軽微だった。一年に一日か二日働くだけでよかった。同時に、富の蓄積は不名誉なことだった。ほとんどのシムゾニア人は余剰分を仲間の福利に捧げた。

 シーボーンはシムゾニアについてたっぷりと学ぶことができた。たとえば地元の海にふんだんにある真珠はすりつぶして絵具として用いられた。彼はこの豊かな真珠を入手しようと決めた。しかし好奇心が満たされていないのも確かだった。防御エンジンが何のことかよくわからなかった。誰に対して防御するというのか。なぜシムゾニア人はそれについて話したがらないのか。

 彼は慎重に疑問を呈した。結果的に事実が明らかになった。防御エンジンとは高度な破壊兵器のことだった。ベルズビアとの戦争に勝つために欠かせない兵器だった。

 シーボーンはスルイとの会話のなかで、ベルズビア人についてすでに学んでいた。彼らは内世界の北方大陸に住む民族で、その一部はシムゾニアから追放された人々だった。このシムゾニア人たちは下劣な心の持ち主で、有害な習慣を捨てることができず、結局犯罪に走ってしまった。社会に対して危険で、救いようがないと考えられたので、北方大陸に亡命するしかなくなった。そこでもまた悪徳の道を求めることになったのである。

 何世紀にもわたって二つの国は不安定な関係を保ってきた。そしてある日、ベルズビアの戦艦が姿を現し、シムゾニア侵攻を始めたのだった。非武装で、流血を好まないシムゾニア人には為すすべがなかった。全土が支配下に置かれ、彼らの生き方をも終了させられる寸前だった。

 国が岐路に立ったとき、あるマシーンを携えて登場したのが、フルトリアという名の市民だった。防御エンジンと彼が呼ぶマシーンは、ハンドルを持つ巨大兵器だった。それは火炎を放射し、すべてを焼き尽くした。フルトリアは自分が開発したマシーンを実地でデモンストレーションした。侵略者を撃退するために、これを用いるよう促した。

 しかし名士たちは彼の申し出を断った。それは野蛮で非人間的だと言い放った。そのような手段で解決を図っても、正義が貫かれているとは言い難かった。

 それに応じたフルトリアは、評議委員会メンバーより早くやってきて、饒舌で熱のこもった演説をおこなった。彼の論法は説得力があった。戦争をしようとしている人々が破滅せざるを得ないようにすることによって、戦争を撲滅することができるはずだ、と彼は主張した。「剣を取る者は剣によって滅ぶべし。そして戦いをふたたび耳にすることはなくなるだろう」

 名士たちは熟慮した。彼らは原則を守りながらも、一つのプランにたどり着いた。

 ベルズビア人やその支持者に見えるように、エンジンをオンにした状態でこの忌まわしいマシーンを展示することは、彼らに国から即座に追放される恐怖と不安を植え付けるということだった。そして効果的に戦争に戻ることを思いとどまらせた。このように方策は取られ、成功を収めることができた。敵は逃亡し、それ以来、戦争が起こることはなかった。 




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