(6)
ずっとのち、当時の編集長がこのエピソードを振り返っている。「仕事に関していえば、レイは編集者たちにたいしてトリックを使いたがった。ゴミ箱から拾い上げたのもそうだね。そうやってアメイジング・ストーリーズにそれを掲載すると、郵便物が洪水のごとく押し寄せてくることになった」
誤字だらけの投書の差出人はペンシルベニア州バートのリチャード・シェイヴァーだった。シェイヴァーはマントン語という言語について書いていた。彼の主張によれば、マントン語は人類のオリジナルの言語で、アトランティスの住人によって話されていた。すべての言語はこの言語から派生したものだった。英語もそのルーツをたどればマントン語に通じていた。マントン語は隠された意味を持っていた。
シェイヴァーはマントン語の音韻を列挙した、そしてそのアルファベットを。これらの持つ意味は本質的なものであり、他の言語とちがって時間の経過とともに変化することがなかった。マントン・アルファベットを読み解くということは、英語の単語を読み解くということだと彼は説明した。たとえばデソレイト(desolate)という単語はde(破壊的)とsol(太陽)、ate(むさぼり食う)から成っていた。
シェイヴァーは申し立てをするかのように結論を述べた。
これはこの言語の現存する唯一のコピーである。そして長年にわたる私の研究のなかでも意義深いものである。これはきわめて重要な発見であり、神の伝説が現代人類でなく、より賢明な種族の土台から生まれたことを示している。私にはもう少し励ましが必要なようだ。
励ましはアメイジング・ストーリーズ誌の読者からやってきた、何百もの投書として。パーマーからの挑戦状への回答として読者はマントン・アルファベットを使って英単語を解釈した。そしてシェイヴァーは何か特別な存在になった。励ましを与えたひとりはパーマー自身だった。パーマーはシェイヴァーに手紙を書き、もっと情報はないかとたずねた。そしてこのマントン・アルファベットはどこから得たのかと聞いた。
何か月もたってから、パンパンに膨らんだ投書がジフ・デーヴィス社のオフィスに届いた。なかに入っていたのは「未来の人類への警告」と題されたシェイヴァーが書いた原稿だった。それをひと通り読んだパーマーは、この事実に基づいた物語は(意図されたように)文字通りダイナミックだと思った。しかしながらそれは全面的な書き直しが必要だった。
パーマーは作業に着手した。「私は白地の紙をタイプライターに差し込んだ」と彼はのちに述懐している。「そしてシェイヴァー氏の奇妙な手紙原稿をもとにして、3万1千語の物語を書き上げた」。この物語には「私はレムリアを覚えている」というタイトルがつけられた。
読者はこれらの作品のなかにワクワクさせる何かがあるとあらかじめ教えられた。「創刊以来はじめて」とパーマーは編集後記で述べる。「アメイジング・ストーリーズ誌は真実の物語を提供する」
1945年3月号は「私はレムリアを覚えている」をフィーチャーした号になった。表紙もこの物語を描いたイラストだった 。
シェイヴァー・ミステリーがついに姿を現したのだ。
⇒ つぎ