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サラ・ホスキンは地面に横たわっている夫を発見した。家から夫のところへ駆け寄り、叫んだ。「ああ、あなたはいったい何をしたの?」。彼女はシリルを(あるいはランパか)目覚めさせ、ふらふらする彼を何とか家まで歩かせた。
つぎの数日間は大変だったとランパは『ランパ物語』の中で語っている。ラマはこの新しい体になじもうと努力した。彼はふらふらし、後ろ向きに歩き、つまずき、機械仕掛けの人形みたいにグラグラした。問題は、がっしりしたチベット人にとってこの体が小さすぎたことだ。彼はサラに何が起きたか説明しようとした。
ラマが英国人の体に転生することは特筆すべきことだが、英国人の妻の反応もまた劣らず特筆すべきものだった。「移行が終わったあとは」と彼女は認めた。「ふたりともとても奇妙な感覚を持ちました」。最初はショックだったが、サラはこの状況を受け入れることができた。彼女はいまやチベット人ラマの妻なのだ。
「その日わたしはたまたま窓から外を見ました。庭の木の下に夫が倒れているのが見えました。この光景を忘れることはできません。急いで夫のもとへ駆けつけますと、夫はよくなりつつあるようでした。でも訓練を受けた看護師であったわたしからすると、夫は気絶しているように見えました。意識が戻ってきますと、夫のそぶりがどこか違って見えました。どうも何かがおかしいのです。
話し方も違っていました。間隔を入れながら話すのです。慣れない言葉で話しているかのようでした。声も以前より深みを増しているように思われました。
しばらくの間とても気がかりでした。夫の記憶に何かが起こったようなのです。話したり動いたりする前に計算をしているようでした。どうやら望んだものが見えるよう、わたしの心に波長を合わせようとしていたのです。早い段階でわたしが気に病んでいたことを認めざるを得ません。でも今はとても自然なことのように思えます。わたしみたいな平凡な人間のそばでこんな驚くべきできごとが起こるなんて、つまりチベット人ラマが西側世界に出現するなんて、とても信じがたいことです」(ダグラス・ベイカー著『第三の眼を開く』)
適合はランパ自身にとってはもちろん意味深いことだった。既婚の英国人男性の体に転生すること提案されたとき、彼は判断を保留した。「ええっ! と私は飛びあがって驚いたよ。彼(英国人)は結婚しているんだ。いったいどうしろというのか。私は禁欲主義者の僧侶だ。そこから私は逸脱しようとしている」。ロブサン・ランパは人生の大半をラマ僧院で過ごしてきた。そんな彼が突然支えるべき妻を持つ身になったのだ。これは英国式の習慣であり、学ばねばならない。そして新しい言語を(また声帯の使い方を)習得せねばならない。「ブッダの聖なる歯によって私は許されるのか」
しかし後戻りはできなかった。小さな庭つきのロンドン郊外の家は、いまやチベット人と妻の家なのだ。シリル・ホスキンは立ち止まるわけにはいかなかった。ランパは説明する。「チベット人ラマであるわたしはいま、もともと西洋人であった男の体にいます。永遠にここにいることになるでしょう。もとの主は戻ってくることはないでしょう。彼は喜んで同意したのです。わたしの緊急の必要性を考慮して彼は地上の人生を喜んで捨ててくれたのです」
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