Photo:Mikio Miyamoto
チベット奇観 (6) インド・ザンスカル プクタル寺院
断崖絶壁にあいた巨大な洞窟と岩壁にへばりついたチベット仏教寺院の建物群。ここプクタル寺院は私が「いつか行ってみたいあこがれの峻険な場所」だった。記憶とは不思議なもので、とっくの昔に願望は達成しているのに、いまだに「いつの日か」という思いの熾火は消えていない。
ここを訪ねてみて、はじめてチベット学の祖
チョーマ・ド・ケレシュが一年間寺の小部屋に滞在し、チベット語を学んでいたことを知った。彼はヨーロッパ人(ハンガリー人)としてはとても小柄で、見かけからは想像できないほどの探検家であり、まれに見る語学の天才だった。しかしもちろん、修行僧のような厳しい生活をしながら研究に打ち込んでこその天才だった。
寝相の悪い人は崖下に転げ落ちる。そう言いたくなるほど危険なところだらけだった。道路から寺に入るところも道というよりたんなる斜面で、よろけたらそのまま下の川に落下しそうだった。巨大な洞窟に入ったときは、桃源郷につながる洞穴に入ったような気になった。足を踏み入れた途端、次元が移行したような気がした。子宮に回帰したのかもしれなかった。中は意外と雑然としていて、物置みたいで、聖なる雰囲気はあまりなかった。ただし一見しただけではわからない小さな穴が開いているのではないかと思う。そこから別の場所に通じている枝穴のようなものがあるのではないかと思ったが、発見できなかった。
プクタル寺院
Photo:Mikio Miyamoto
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