聖なる渦と波模様 

 シャリグラム(とくにアンモナイトの化石を指す)を用いてヴィシュヌを瞑想することを最初に説いたのは、8世紀のインドの哲学者シャンカラと言われています。『シャンカラによるヴェーダンタ・スートラの注釈』を読みますと、偶像崇拝にならないように気をつけながら、ヴィシュヌを信仰する方法として提示しているのです。

 
たくさんの化石がはまりこんだ岩。よく見ると無数の小さな化石の痕跡が確認できる 

 仏教の瞑想法にアンモナイトの化石を用いたものがあるかどうかはわかりません。チベット人にもそういう方法はなかったでしょう。化石はチベット語でドル(rdo rus)といい、石の骨という意味で、どこか即物的です。

 ボン教やシャンシュン国にもそんな瞑想法があるかどうか、私にはわかりません。しかしアンモナイトの化石を見れば見るほど、ユンドゥン(卍)に見えてくるではないですか。それはまさにユンドゥン(永遠)なのです。

 シャンカラは化石がどういうものか、理解していたのでしょうか。それが生き物であったこと、そして永遠に閉じ込められた時間であると認識していたのでしょうか。

 インド、ネパールのヒマラヤ山脈の何か所かでは、アンモナイトの化石が大量に採れます。とくにカンダキ川が古くから知られています。西チベットにも、アンモナイトをはじめとするさまざま化石が採れる場所がありました。祭祀活動がおこなわれた形跡があったので、シャンシュン人がシャリグラム崇拝をしていたと推定されます。もちろん巡礼途中のインド人がヴィシュヌ神信仰として化石を敬っていた可能性もあります。

 シャンカラだけでなく、だれにとっても化石というものは不可思議な存在であり、神の遍在を感じさせます。とくに渦巻き型のアンモナイトの化石は永遠の象徴といえるでしょう。

 
直径5mほどの渦巻き型(褶曲)地層と温泉が造り出した化石のような地層(キュンルン銀城) 


 西チベットでは、渦巻き型の地層を見ることがあります。もちろん渦巻き型の地層などありえないので、褶曲の極端な例なのでしょう。私は木がそのまま化石になっているのを見たことがあります。この場合の年輪と渦巻き型の地層はよく似ているので、古代の人には識別できなかったかもしれません。

 

キュンゴの岩を利用して作った砦。その表面の波模様 

 また西チベットの岩には、地層そっくりの波模様が見られることがあります。この模様を見ているだけで、時間を超越してしまいそうです。シャンカラがもしこういったものを見たなら、そこにヴィシュヌ神やブラフマンの存在を感じ取ったことでしょう。

 
キュンゴの波打つような地層の岩と波模様のピラミッド型岩 

 ザンスカルにも「波の岩」があった 


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