コルブリン・バイブル           宮本神酒男 

 コルブリン・バイブル、またはブリテン書と呼ばれる古文書は、1184年、ヘンリー2世の軍の侵攻によってグラストンベリー大寺院が火事で焼け落ちたとき、地中から発見されたという。全11巻から成り、最初の6巻(青銅の書)は出エジプト直後に学者によって神官書体で書かれ、残り5巻(コエルの書、あるいはカイレディ)は新約聖書が書かれた頃に編纂された。フェニキア文字を使って翻訳された文書が1世紀、フェニキア人によってブリテンにもたらされた。この古文書はさまざまな人の手を経て、1980年にカルディアン・トラストの所有となり、1992年にホープ・トラストによって整理・編纂され、現行のものとなった。

 ジェームス・マッカニーは『アトランティスからテスラへ』(2003)のなかで、コルブリン・バイブルに「破壊者」という名で惑星X(ニビル)のことが書かれていると指摘した。ニビルとは、ゼカリア・シッチンが提唱した3600年周期で楕円軌道を移動するという仮説上の惑星である。存在するという証拠はないが、存在しないという証拠もあげられないため、いまなお消えないトンデモ説の定番となっている。(もちろん長楕円軌道を描く惑星や彗星の存在を否定することはできないので、トンデモと切り捨てることはできない)

 多くの人は、コルブリン・バイブルは偽書であると考えている。実際、コルブリン・バイブルという名を目にするようになったのはごく最近のことであり、一種のフィクションと考えたほうがいいだろう。確固たるもの、たとえばオリジナルの写本や青銅板が提示されないため、現時点では「ウィキペディア入り」も果たしていない。一言で偽書というにしても、数百年の歴史を誇る由緒あるバルナバ福音書と同列に扱うことはできない。問題は、いいフィクションかどうか、UFOや惑星ニビル、マヤ暦などが好きな人に支持されるかどうかだろう。

 ここでは後半のケルト関連の部分だけ見ていこう。イングランド南西部サマセットのグラストンベリーはアーサー王伝説の地として知られるが、アリマタヤのヨセフ伝説も、またときにはイエスも加わった伝説もあまた流布しているのである。アーサー王すら歴史的事実である証拠をなかなか探し出せないのに、アリマタヤのヨセフやイエスが来たという証拠を探し出すのは至難の業である。

 コルブリン・バイブルはそうした人々のモヤモヤした気持ちを晴れさせる役割を持った書といえるだろう。アリマタヤのヨセフがブリタニアに来たときのことは、つぎのように記されている。

 ヨセフ・アイドウィン(アリマタヤのヨセフの別名)と彼の一団は、イエスの死から3年後、花咲くブリテンにやってきた。上陸後、彼と彼の一団は樫並木と巨石の通りを歩いて行った。彼らは実がほのかに酸い聖なるブドウ園の傍らに小屋を建てた。

 また、ヨセフがはじめてドルイド僧と会ったときのことが描かれている。

 われらの信仰の父、ヨセフは嵐の海を越えてバルグウェイトという土地にやってきて、そこからタイシャンへ行った。そこでヨセフはトラブルに巻き込まれているという王の特使と会った。王はいま、人々の秘密会議を開いていて、ドルティン(ドルイド僧)もまたそこにいた。王はわれらの父に言った。

「人々の前でお話しください。あなたのやりかたを教えてください。それがいいかどうか、われわれは判断することになります」

ヨセフはわかりやすい言葉でしゃべった。ゆっくりとではあったが、彼らの話し方とは異なっていた。

「はじめに光があった。そして光は目にそれを見るように言った。すなわち神はすでに存在する光だった。心は思考を生み出さなかった。しかし思考も心を生み出さなかった。それはあきらかだった、というのも心は結果の世界を維持するために生み出されたからである。原因の世界は異なる王国にあった」

 
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