12 都市の破壊者
リグ・ヴェーダは神々を「都市の破壊者」あるいは「征服者」と呼ぶ。この記述ゆえヴェーダは都市を破壊し、都市文明に反する野蛮な遊牧民の文化とみなされてきた。
しかしヴェーダの中でアーリア人が都市を持ち、都市によって守られてきたという記述は百ヶ所にも及ぶ。インドラやアグニ、サラスワティ、アディティヤなどのアーリア人の神々は都市と同様に讃えられている。そもそもエジプトやメソポタミアを含む古代の王たちは「都市の破壊者」「征服者」という称号を持つことが多かった。
「征服者」という場合は文字通りなわけだが、灰燼に帰したのではなく、単に勝利したという意味合いにすぎない。ヒンドゥー教の偉大なる神シヴァがトリプラハラ、すなわち三つの都市の破壊者と呼ばれるときも同様である。このことから彼らが遊牧民だったということにはならない。現代の戦争で都市を破壊する人々が遊牧民でないのとおなじだ。
ヴェーダの人々が都市を破壊し、建築しなかったという考えを持つなら、それはヴェーダに書かれていることを無視しているということになる。実際、リグ・ヴェーダのなかで破壊され、征服された都市は、ヴェーダの人々の住む都市なのだ。たとえばスダによって滅ぼされた七つの都市にはヴェーダの人々が住んでいた。
最近の考古学によってインダス文明は破壊されたのではなく、捨てられたということがわかってきた。それによってヴェーダのアーリア人が破壊者というアーリア人侵入説に固着する人々の考え方も消え去ろうとしている。
ヴェーダの中の戦いは、馬やアヤス(おそらく銅)、大麦、都市といった文化を共有するおなじグループのなかで行われた。侵略したアーリア人と土着のハラッパーの人々とのあいだに起こった戦争とはとうてい言えない。ハラッパーや前ハラッパーの時代に古代インドで起こった紛争なのである。おなじことはインドだけでなく、ほかの文明にも起こっていた。