14 ヴェーダのいわゆる人種戦争

 ヴェーダの人々は、光と闇の戦いというヴェーダ的な観点から、ヨーロッパ人のような白い肌の人種と考えられてきた。これを補強するために彼らは光の子、太陽の子とみなされた。
 しかしながらこの光と闇の戦いという概念はインド・ヨーロッパ語族、非―インド・ヨーロッパ語族を問わず、存在していた。エジプト、ペルシアにもあったが、とくに後者のゾロアスター教にはこの二分法が特徴的だった。
 聖書の神と悪魔の戦いにもその影響は及んでいた。しかしどうして我々は、光と闇の戦いを白人と黒人の戦いと考えてしまったのだろうか。それは神話の比喩であり、文化のことではないはずなのに。だがヴェーダに描かれる黒い敵は、光と闇の比喩の闇であるにすぎない。悪魔は闇(黒)であり、それに対するのは太陽の神であり、光のパワーなのである。

 それに古代インドにそのような白い民族が存在した形跡はない。(S・R・ラオ)

人類学者は、現在のグジャラートの人々と紀元前2000年のロータル遺跡の人々とはほぼ同じだとみなしている。同様に現在のパンジャブの人々は四千年前のハラッパーやルパルの人々は同一だと考えられる。グジャラートやパンジャブで現在話されることばはインド・アーリア語に属する。つまり人類学的にも言語学的にも四千年前のハラッパーやパンジャブには2、3種類のグループはあっただろうが、現在のインドの民族とほぼおなじだったのだ。

 言い換えるなら、人種を見る限り、インド・アーリア人の侵略はなかったことになる。北にも南にも追い出された人々はなく、おなじグループ、すなわち自らをアーリア人とみなした人々が住み続けているのである。
 考古学からは人種間の戦争があったという証拠は得られず、ヴェーダ文献は比喩を語るのみである。ヴェーダの賛歌を詠めば我々は黒人から救われ、白人と生きていくことができるというわけだ。



⇒ NEXT
⇒ INDEX