22 サンスクリット

 アーリア人侵入説の論者によれば、アーリア人たらしめる唯一の条件は言語である。ほかのいかなる文化的特徴も人工遺物もアーリア人を証拠立てることはできない。さらに矛盾点がある。サンスクリット語は原始的な侵略者でなければならず、多くの人はなおもそう主張するのだが、世界一とはいわないまでもよく洗練された言語なのである。サンスクリット語はコンピューターに向いた言語と言われてきた。それほどクリアな言語なのだ。それはまた特定のルーツから発展した言語でもあった。古代ドイツ語、デンマーク語、フランス語、それにギリシア語やラテン語などの混合から生まれた英語とは大変な違いといえる。それはさまざまな人々が英国に侵入してきたという歴史を反映している。

 さらにサンスクリット語は音楽的で韻律を踏んだ言語である。それはブッダ以前の文法家パーニニの時代にまでさかのぼる、もっとも古くて洗練された文法構造をもつ。パーニニはリグ・ヴェーダにいくつかの古い文法があったことを記している。リグ・ヴェーダ中の古いサンスクリット語は複雑な韻を踏み、洗練された言葉の遊びに満ちている。類義語の多用は長く豊かな発展を示している。その音、マントラ、そして聖なる言葉は、まったくもって神秘的である。

 言い換えるなら、サンスクリット語は野蛮な遊牧民の言語でなく、古色蒼然とした、精錬された詩的言語なのである。そのような言語はまた文化を産出する。洗練された言語は洗練された文化こそがふさわしいのであり、アーリア人の侵入者ではない。


⇒ NEXT
⇒ INDEX