25 修正された古代史

 われわれはアーリア人侵入説を検証し、それがもはや実証できないことを見てきた。新しい証拠が出てくると、それにあわせて微調整してきたが、調整のしようがなくなっている。われわれはアーリア人侵入説が成立しないという前提のもと、インド史や世界史を見直さなければならない。ヴェーダがハラッパー文明やハラッパー文明以前に起源を発していることを受け入れるなら、それはインド史だけでなく世界史の見方に革命を起こすことになるのだ。

 第一、世界でもっとも古くもっとも大きい文明のひとつはヨーロッパでも中東でもなく南アジアであり、彼らはインド・ヨーロッパ語族だった。彼らがもともと遊牧民であり、その文化は原始的で、中東の人々から文化を引き継いだという見方はかなりあやしくなってきた。彼らは紀元前3千年期までには独立した、洗練された都会の文明を生み出していた。インド・ヨーロッパ語族、すなわちヨーロッパ、中東、中央アジアの文化は古く上質のものだった。ヨーロッパ文化の源はギリシア文明ではなく、ヴェーダなどのヒンドゥー文化なのだった。遊牧民のインド・ヨーロッパ語族ではなく、都会の文明のインド・ヨーロッパ語族だった。

 第二、ヴェーダは紀元前3千年期にまで遡る文化の記録である。ヴェーダは厖大な文書であり、4千年以上も前の祖先のことを伝えるはかりしれない価値を有する。ヴェーダを詠むのは今日と同様バラモンである。これと比べられるものといえば現在も歌われる古代エジプトの訓書ぐらいのものだろう。もし古代人の考え方を理解したいなら、ヴェーダを調べればいいということだ。ヴェーダのなかにスケールの大きなものや洗練された文化のことが書かれていたら、それをはなから否定するのでなく、真摯に受けとめなければならない。

 第三、ヴェーダの古代インドが世界のなかでもっとも古く、規模も大きいことがわかった。ハラッパー文化は世界最古であり、現代にいたる連続性がある。この文化は絶えることなく続いてきたのだ。その文化の根源からわれわれの文化が発展してきた、あるいは堕落してきたということを再認識すべきだろう。

 またドラヴィダ人とムンダ人(先住民)の関係もヴェーダのなかに読み取れる。ヴェーダを再解釈してインド・ヨーロッパ語族を一から見直せば、彼らと他の民族のあいだの壁をも破ることになるだろう。ヴェーダ文学のおかげでわれわれはさまざまな古代文化を知り、古代文明の共通性を学ぶことになる。

 第四、ヒンドゥー教だけでなく、古代中国やマヤの古代文学や古代の暦をもっと真剣に取り扱わなければならない。古代人は想像以上にすぐれた歴史家である。しかし残念ながらわれわれは、出来のよくない翻訳家なのだ。古代世界をもっと違った角度から見る必要があるだろう。


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