Bon in Black   ボン教チャム(1)  宮本神酒男

<ボン教のわかりにくさ>
 ボン教とは何なのだろうか。つねにそのような基本的な問いを自分に問い続けざるをえない宗教が、ボン教だと思う。⇒ つづき

<ガメ寺のチャム>
 私がはじめてボン教のチャム(宗教仮面劇)を観たのは、1994年春、四川省松潘の北方30キロに位置するガメ寺でのことだった。⇒ つづき

ダルジョン村の羊の放牧

<レコンのボン教チャム>

アムドのレコン・ダルジョン村(Reb kong Dar grong)にて。

(以下レコン民俗誌からの抜粋。近く全面的に改訂します)

 チャムはダルジョン村のハカン(Lha khang 神廟)でおこなわれた。

 本堂の前に赤く塗ったピラミッド型のゾル(zor 魔術的な武器、の意)とやはり赤いトルマを置く。

 中庭には白墨でマンダラが描かれる。シャクティを表したヨーギーニのシンボルを描き、その中央に赤いリンガ(男性原理を象徴)が置かれる。登場する各神がそれを刀で破壊する。

一日目に誦する経典は「ツェワン(tshed dbang)」。二、三日日に誦する経典は「ブムパ('bum pa)」。

 プログラムは以下の通り。

1 骸骨(keng rus

2 チョペハモ (mchod pa'i lha mo

3 ザ(gza'、曜神、ラーフラ)

4 ダクツェン(brag btsan a bse

5 ドゥラモ (bdud lha mo 魔神女)

6 ツェン (btsan

7 ブクセ (sbug ze

8 ギャルワ(rgyal ba 鬼王)

9 ナクモ (nagm mo 黒女)

10 マルチェン (dmar chen

11 チュゲ(chos rgyal法王)

12 チャムマン ('cham mang

 パフォーマー全員でゾルをもって村はずれまで行く。火を燃やし、そのなかにゾルを投げ入れ、燃やす。

 

 レコン(青海省同仁県)のおもなボン教村はつぎの五つ。

 ホルナク(黄乃亥 Hor nag)ジツァン(吉倉 dKyil tshang)ジャンリ(江日 sKyang ri)マパ・チョンウ(麻巴群吾 sMad pa 'khung bo) ランジャ・サソマ(浪加沙索麻 gLing rgyal sa so ma

 最大イベントであるチャム(宗教仮面劇)は、これらの村で順繰りに正月5日〜8日と10月8日〜11日の年二回、開催される慣わしになっているが、2002年正月は、ランジヤ・サソマから山を上って二時間ほどのダルジョン村(Dar grong 海抜3千メートル)でおこなわれた。この村に番がまわってくるのは三年に一度ほどだという。

 ダルジョン村の特筆すべき点は、ボン教徒と仏教徒が同居していることだ。32戸、260人ほどの小村だが、そのうち18戸が仏教徒(ニンマ派)の家族である。両者のあいだに婚姻関係は普通におこなわれており、結婚しても相手の宗教に改宗することはない。ある西寧で学ぶ大学生の青年(22歳)の場合、八人兄弟のうち二人はボン教徒、二人は仏教僧、二人教師、二人農民。二人の姉妹は学生と主婦。兄弟のなかにボン教徒と仏教僧が含まれることに注目。