折々の記  Mikio’s Book Club  宮本神酒男 

22 グリーン・チルドレンは宇宙人!? 

ニューバーグのウィリアム 『英国できごと史』Historia rerum Anglicarum 
                  〜1166年と1198年の間の英国の歴史〜  

 

 ヒストリー・チャンネルの「古代の宇宙人」をぼんやり見ていると、英国サフォーク州ウールピット村のグリーン・チルドレン(緑色の子どもたち)の伝承が取り上げられていた。*ナショナルジオグラフィックの番組「古代Xファイル」シーズン2(2015年)でも取り上げられていた。オーロラや隕石との関連、宇宙飛来説、病気説、フラマン人説などを検証している。

 小耳にはさんだことのあるその話題が気になったので、ニューバーグのウィリアム(
1136?−1198?)がラテン語で著わした原著の歴史書の現代英語訳を読むことにした。

 番組としては宇宙人に結び付けたいのだろうが、もとの文章を読めば謎が解けることも多いものである。読むと言っても、もちろん『英国できごと史』全体でなく、該当する1章だけのつもりだった。
 しかしつぎの章にも、岩から出てきた犬の話や暗闇の扉の向こうでまばゆい光の宴を開く人々から高貴な杯を奪う話など不思議な逸話が書かれていたので、つい夢中になって読み進めてしまった。この書の末尾には吸血鬼もどきの伝承まで登場する。

 さてグリーン・チルドレンの箇所はつぎのようにはじまる。

 スティーブン王の治世(11351154)の東アングリア(イングランド)でのこと。祝福された王であり、受難者のエドムンドの高貴な僧院から7、8キロのところに村があった。村の近くにウルフピット(Wolfpittes 狼の落とし穴)と呼ばれる古代の穴があり、村の名はそれから取られていた。

 このウルフピットが現在のウールピット(Woolpit)となった。

 この狼の落とし穴は、狼狩りのために掘られた穴である。穴の上に多くの枝を渡し、その上に獣の肉を置き、枝葉をうず高くなるまで撒いてカモフラージュし、狼をおびき寄せる。狼を捕らえるということは人間や家畜を守るということであり、毛皮は実用品であるとともに高く売れる商品でもあった。

 ただし、引っかかるのは、穴がたいへんな古代のものであることだ。これは現在(12世紀の時点で)使われていないということであり、それどころか、狼の落とし穴と呼びながら、実際は用途不明で、古代に何かに使われていたらしいということしかわかっていないのだ。異世界からやってくる場合、この穴を通ってやってきてもおかしくない。

 収穫期、雇われた多くの人々が畑で穀類を刈っているとき、(肌が)完全な緑色をした、奇妙な色の、知られざる素材でできた衣を着た男女ふたりの子どもがこれらの穴から現れた。

 ふたりの子どもは、肌の色は完全な緑だが(緑がかっているのではなく、完全な緑)、カッパのような異形ではなく、類人猿でもない。「スタートレック」に出てきそうではあるが、肌の色以外の外見は人類とおなじである。
 衣装も、宇宙服のようなものでもなければ、現代の奇抜なデザインの服でもなさそうだ。ただ、知られざる素材ということは、コットンやシルク、ウールではないということだ。まさか化学繊維ではないだろうが。

 途方に暮れて子どもたちは麦畑をさまよい歩いていたが、捕らえられ、村に連れて行かれた。村ではこの新奇なものを見ようと群衆が押し掛けた。彼らは食事も与えられず、何日間もそこに放って置かれた。
 飢えて衰弱しきっているのにいまだ食べることができないとき、たまたま彼らの前に、畑で収穫された豆が運ばれてきた。彼らはすぐさま手を伸ばして豆を枝ごと鷲掴みにした。
 彼らは茎を調べて豆を探したが、中が空洞で見つからず、激しく泣き出した。近くにいた人が見かねて、莢(さや)から豆を取り出すと、子どもたちは喜んでそれを食べた。
 彼らはそうして豆を食べながら何か月も生き、それからパンの存在を知った。

 興味深いのは、彼らが豆を見たことがなかったということだ。麦については何も書かれていないが、パンは知らなかったようだ。人間が麦の栽培をはじめ、パンを作るようになったのは、1万年以上も前のことである。パンを知らなかったということは、子どもたちが文明の遅れた世界からやってきたということである。
 子どもたちが豆もパンも知らなかったということは、何を意味しているのだろうか。地底か、あるいは極北地方のような植物の育たない場所からやってきたということなのだろうか。

 われわれの食べ物の影響か、長い間に、徐々に、子どもたちは(肌の)色を変えていき、ついにわれわれと変わらなくなった。そしてわれわれの言葉を覚えた。
 しかし分別のある人間になるためには、洗礼を受ける必要があり、実際に彼らは受けたのである。弟に見える男の子は、洗礼は受けたが、それから間もなくして死亡してしまった。姉のほうは健康そのもので、われわれの国の娘と大差がなかった。
 のちに彼女はリン
Lynne おそらく現在のKing’s Lynnで結婚し、それから数年は生きていたという。

 食事の影響で肌の緑色が消えてしまったということは、人間とおなじ素質を持っているということなのだろうか。あるいは、もともと妖精だとしたら、人間世界に暮らすうちに人間と変わらなくなってしまったということなのだろうか。

 姉と弟のふたりとも洗礼を受けるとうことは、彼らの世界、あるいは国にはキリスト教の信仰がなかったということだろうか。しかし実際、彼らはキリスト教を信仰する国から来たと述べている。洗礼を受けたのは、異教徒でなく、キリスト教徒であることを示し、この社会で生きていくために必要なことだったのだろう。また、彼らは言語を習得したので「どこから来たのか」といった素朴な質問に答えることができた。

「私たちは聖マーティンの地の住人です。われわれはこの聖人をとても尊敬しているのです」

 この聖マーティンは聖マルティヌス(316?−397?)のことだろうか。聖マルティヌスを守護聖人としてあがめる地域はフランス、ドイツをはじめヨーロッパの広域に渡っているので、聖マーティンの地がどこか特定するのは困難だ。そしてもしそうなら、緑の子どもたちの神秘性は消えてしまう。

 この聖マーティンの国がどこにあるのか、どうやってここに来たかという質問にたいしては、つぎのように答えている。

「私たちには(どこから来たか、どうやって来たか)よくわからないのです。覚えているのは、ある日、畑で父親の家畜にエサをやっていると、突然大きな音が聞こえたのです。それはすっかり耳慣れた聖エドムンド教会で聞く音と似ています。それは教会の鐘の音です。その音に感嘆してうっとりとしているとき、突然、麦を刈っているあなたがたのなかに来てしまっていたのです」

 ここがもっとも神秘的で不可解なところである。異なる国、あるいは異なる世界から、姉と弟が同時にテレポーテーションしてきたというのだ。あちらで(こちらとあまり違っていないように見える)鐘の音のような大きな音がして、瞬間的に時空間を(?)移動したという。
 彼らは鐘の音と言っているが、当時、もっとも大きな音は鐘の音だったのではなかろうか。近くに教会があったわけではないので、鐘の音のはずがないのだ。あまりにも説明不能なので、私は「ドクター・フー」の時空移動装置ダーレクの力を借りたくなるが、もちろんこれはフィクションにすぎない。

 彼らはまた「あなたの国ではキリストを信じるか」「あなたの国でも太陽は昇るか」という質問に「国はキリスト教国です」「教会もあります」と答えたあと、つぎのように述べている。

「太陽は昇りません。太陽の光線に私たちの国はほとんど祝福されないのです。私たちは薄明で満足します。それはあなたがたの国の、日が昇る前のかすかな光、日が落ちたあとのわずかな光とおなじなのです。
 さらには、そんなに遠くないところにまばゆく輝く国が見えます。その国とは、とてつもなく大きな川で隔てられているのです」

 ここだけ見ると、彼らの故郷は極北地方のように思われる。わずかな期間の夏以外、この地方では薄明の状態が続くのだ。しかも「まばゆく輝く国」はオーロラと考えれば納得できる。それを隔てる大きな川とは北極海のことだろうか。あるいは天の川のことだろうか。

 しかし彼らの故郷は地底国だと主張する人もいるだろう。あちら側とこちら側では、それほど変わっていないようにも思われるけれども。

私はケルト神話の「ダナの息子たち」を連想した。タルトゥの合戦に敗れた「ダナの息子たち」は地下にのがれ、地下世界を支配するようになる。ケルト神話とおなじ神話がイングランドにあるかどうかはわからないが(そもそもケルト人は英国の先住民である)その可能性はあるだろう。それに「ダナの息子たち」は、極北の地からアイルランドにやってきたと考えられているのだ。
 イングランド東南の海岸部にはスカンジナビアからやってきた人々の遺跡が数多くあり、その意味でもケルト神話の地方とイングランド東南部に共通点が多いのは当然である。

極北か、地下世界か。この二つがグリーン・チルドレンの故郷の有力候補となった。ただしなぜ緑色かの謎はさっぱり解けていないので、異星人説や異次元説も含めて、あらゆる候補を排除すべきではない。


⇒ つぎ 闇の扉の向こうの光の宴 

⇒ つぎのつぎ ゾンビか吸血鬼か 

⇒ そのつぎ 元祖吸血鬼 


⇒ ハーバート・リード『グリーン・チャイルド』について New!