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死を想え(メメント・モリ)。
この中世ヨーロッパのいわば死の哲学を数千年先んじ、実践していたのはインドである。その徹底した実践者は墓場でドクロ杯をもち修行するカーパーリカたちだった。同様の仏教修行者はカパーリと呼ばれた。彼らは墓場で肉を食らい、酒を飲み、性の快楽を楽しんだといわれる。
現在のチベット仏教にチュー(断)と呼ばれる修行法があるが、行者が墓場で修行を行なう点は共通している。
左の八大屍林の壁画は地獄絵よりもリアルなぶん、いっそう恐ろしい。この絵はしかし人を恐がらせるのではなく、死を観想するためのものである。
八大屍林(寒林 Shitavana)
八大屍林(寒林 Dur khrod chen po brgyad)とは、直訳すれば、8つ墓場、ないしは遺体を捨てる場所のことである。実際に存在するというより、観念的な存在と考えたほうがいいだろう。
この8という数字は、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)にマノ・ヴィジュニャーナ(心の働き)、マノ・クリシュタ・ヴィジュニャーナ(カルマによって曇った心の働き)、そしてアーラヤ識を加えた8つの感覚に対応するという説がある。
しかしおそらく単純に8つの方角と関連しているとみるべきだろう。屍林(寒林)の名称は以下のとおり。
「東」暴虐寒林 gTum drag
「北」密叢寒林 Tshang tshing can
「西」金剛炎寒林 ‘Bar bas ‘khrigs pa’i keng rus
「南」骨鎖寒林 ‘Jigs sde
「東南」吉祥寒林 dPal gyi nags
「南西」幽暗寒林 ‘Jigs pa’i mun pa
「北西」囀囀寒林 Kili kilar sgrogs pa
「北東」狂笑寒林 Ha har rgod pa
左の壁画はこの西チベット・グゲ王宮のなかにある。
ジュゼッペ・トゥッチはカトマンドゥのダルバル図書館所蔵の『八大屍林小論』のテキスト(サンスクリット)を英訳しているが、煩瑣にすぎるのと、左のグゲの壁絵と整合させるのが困難なので、ここでは割愛したい。(Giuseppe Tucci ‘The Temples of Western Tibet and Their Artistic Symbolism 1935)
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屍林で修行するカーパーリカ
<参考文献>
Giuseppe Tucci 'The Temples of Western Tibet and Their Artistic Symbolism' 1935
Surendra Dasgupta 'A History of Indian Philosophy 1922'
David N. Lorenzen 'A Parody of the Kapalikas in the Mattavilasa' (Tantra in Practice) 2000
Robert Lewis Gross 'The Sadhus of India' 1992
G.S.Ghurye 'Indian Sadhus' 1953
Sondra L. Hausner 'Wandering with Sadhus' 2007
Dolf Hartsuiker 'Sadhus' 1993
Majupuria & Kumar 'Sadhus & Saints' 1996
Keith Dowman 'Masters of Mahamudra' 1985
Crook & Low 'The Yogins of Ladakh' 1997
14th Karmapa & Jamgon Kongtrul 'Chod' 2007
David Molk 'Lion of Siddhas' 2008
Sarah Harding 'Machik's Complete Explanation' 2003
Ronald M. Davidson 'Indian Esoteric Buddhism' 2002
Elizabeth English 'Vajrayogini' 2002
Judith Simmer-Brown 'Dakini's Warm Breath' 2001