折々の記  Mikio’s Book Club  宮本神酒男 

21 シェイヴァー・ミステリーは精神疾患ファンタジーなのか 

リチャード・シェイヴァー 『レムリアの記憶』他 

 

<序> 

 どうも、納得しがたい。何が納得しがたいかといえば、リチャード・シェイヴァーの作品群、シェイヴァー・ミステリーがSFファンから受けた仕打ちのことである。シェイヴァー・ミステリーといえばシェイバー・ホークス(シェイバーのインチキ)と言い換えられるほど、読者をあざむいたペテンSFのイメージがある。しかし作品を発表した媒体はB 級の代名詞SFパルプマガジンである。そこに「これは真実の物語」と銘打ったとしても、だれが本気で信じるだろうか。それなのに多くの人が信じ、「自分も似たような体験をした」といった類の投書がたいへんな数にのぼったのである。多くの読者が真実と信じ、そしてその後「真実ではない、騙された」と感じたのはなぜだろうか。

 私はシェイヴァーの作品は基本的に真実であると信じている、ただしシェイヴァーの真実がそのまま現世界においても真実とみなされるかどうかとなると、別問題だ。あとで述べるように、シェイヴァーは9年間も精神病院に入院していた。現世界的には、彼の作品は統合失調症によって生み出されたものなのである。彼の統合失調症の創作力を見いだし、高く評価したのがレイモンド・パーマーという文才とプロデュース能力のある男だった。おそらく彼のいいわば文飾能力が見え透いていたため、つまり手を加えすぎたため、読者は作り物だと感じてしまったのではないだろうか。 

 リチャード・シェイヴァーについておさらいをしておこう。「コトバンク」は「リチャード・シェイヴァー19071975) 米国の作家。ノン・フィクションを装ったフィクションのミステリー作家」と説明している。まるで読者をだましたペテン作家のような扱いだ。「ウィキペディア」によればSFパルプ・マガジン(『アメージング・ストーリーズ』)に、編集長のレイモンド・A・パーマーとともに、のちにシェイヴァー・ミステリーと呼ばれるシリーズを執筆。同シリーズは激しい論争の的となり、シェイヴァーは大いなる悪評を得た」とこちらも共犯者パーマーとともに悪事を働いた作家であるかのような書き方だ。レッテルはすでに貼られてしまっているのだ。
 もちろんシェイヴァーの絶対的な支持者も少なからず存在している。マイケル・モットは「リチャード・シャープ・シェイヴァー(1907−1975):フィクションライター、ノンフィクションライター、アーティスト、詩人、夢想家、哲学者」(マイケル・モット『この悲劇的な地球』序章)。モットはシェイヴァーの哲学を一言で表すなら「気をつけろ(Beware)」だと述べている。つまり「デロ(有害なロボットの略)に気をつけろ」「デロのフライングマシーンに気をつけろ」「現代社会に気をつけろ」「過去に気をつけろ」「人間の傲慢さ、愚かさ、近視眼的なところ、戦争挑発、環境破壊、一般的な愚昧ぶりに気をつけろ」「これらすべてのことに気をつけろ」だという。人類に警鐘を鳴らすのがシェイヴァーの役目であったようだ。

1945年から48年頃、シェイヴァーの作品が掲載されたSF雑誌『アメージング・ストーリーズ』は驚くほどよく売れ、一躍社会現象となった。しかしその後は一転、シェイヴァ―はSFファンから袋叩きに遭い、「シェイヴァーのインチキ」(Shaver Hoax)という言葉が生まれるほどの汚名を着せられることになる。

 それから70年以上の月日がたち、いまこそこのシェイヴァー・ミステリーについて再考し、再評価すべきなのではないかと私は考える。そもそもシェイヴァーは「ノン・フィクションを装ってフィクションを書いた」のではなかった。上述のように、彼は編集部に手紙を送る前の9年間、3つの精神病院に入院していたのであり(一度は脱走に成功し、カナダのニューファンドランドにまで達している)、頭の中では実際に「声」が響いていた。これは幻聴であり、統合失調症の症状である。その声は我々の知らない宇宙および地球の歴史を語り、地球内部の洞窟に住む破壊的な種族デロの人間への影響について警告した。シェイヴァーはこの危機的状況を広く知らせるために『未来への警告(のちに「レムリアの記憶」と改題)』を執筆した。

 統合失調症でなく、シェイヴァ―がほんとうに声を聞いていたのだとすると、どういうことになるだろうか。彼が書いたのはSF小説ではなく、高次の霊的存在とのチャネリングの記録ということになるのではなかろうか。シェイヴァーはいかさま小説家ではなく、チャネラーなのだ。現在だったら、懐疑的な目で見られるにしても、チャネラーを称することになんら問題もない。精神疾患のことはともかくとして、彼は疑うことなく(彼からすれば)、霊的存在と交流している。だからチャネリングを好む人々からは相当高い評価が得られるだろう。考えてもみてほしい。シャーリー・マクレーンのチャネリング体験をSF雑誌に掲載したら、読者からブーイングを浴びることにならないだろうか。シェイヴァーとパーマーはその種の過ち、すなわち発表の場の間違いを犯してしまったといえる。『アメージング・ストーリーズ』が売れたために批判されたのなら、チャネリング専門誌でも創刊すればよかったのにと思うが、時代を先取りしすぎてしまったようだ。ニューエイジの時代まであともうすこし待たねばならなかった。
*1946年にミード・レイン主宰のボーダーランド・サイエンス・リサーチ・ファンデーションというサンディエゴの心霊科学グループの訪問を受けている。そのときレインは「デロを嘲ってはいけない。それはとても危険である」という霊媒師マーク・プロバートのアドバイスを伝えている。

 もちろん「頭の中の声」を病理的現象としてとらえるか、チャネリングととらえるかで物事の見方は180度変わってくる。この道の権威であるマリウス・ロームとサンドラ・エッシャーの『まわりには聞こえない不思議な声』(日本評論社)や『声とともに生きる』などを読めば、幻聴は統合失調症だけに見られるのでなく、多くの人、とくに若い人がよく経験することであることがわかる。言い換えるなら、精神病でなくとも、声を聞くことがある、ということだ。チャネリングは非常に特別な、ときには神聖な体験であり、統合失調症である必要はない。


1 シェイヴァー・ミステリーの登場  
2 リチャード・シェイヴァーの生い立ちと彷徨と入院歴 
3 声の秘密  
4 嵐の中の騒がしさ 



⇒ レムリアの記憶 

⇒ 夜の魔女 

⇒ 声にさいなまれて  狂人の初期症状なのか、未来への警告なのか 

⇒ 無駄な逃走 

⇒ 洞窟に入る 

⇒ 天国の風味 

⇒ 生きている図書館 

⇒ 大惨事と脱出 

⇒ 古代文字 

⇒ マントング語辞典 

⇒ なぜ洞窟は秘せられたか 


* リチャード・シェイヴァー ソロモン 

* 虚ろの地球 8  D・スタンディッシュ 









1945年、一世を風靡したシェイヴァー・ミステリーが
掲載された『アメージング・ストーリーズ』誌
 


頭の中の声から作品を作り出した
リチャード・シェイヴァー 



レイ・パーマー(愛称ラップ)と妻 
編集者ラップがいなければシェイヴァー・ミステリーはなかった 



シェイヴァーが大柄でパーマーが小柄なため 
合成写真のように見える