スタンのケサル研究
翻訳 宮本神酒男
☆ロルフ・アルフレ・スタン(本来のドイツ語発音でロルフ・アルフレート・シュタイン
Rolf
Alfred Stein)の『チベットの叙事詩及び叙事詩人研究』(Recherches sur L’epopee et le Barde au Tibet 1959)は、チベットの英雄叙事詩ケサル王物語の数少ない本格的な研究書だ。部数にすれば300部にも及ぶとされ、エピック(叙事詩)としては世界最長級であり、チベット学者にとっても安易に手が出せるテーマではないのだ。
出版されてから半世紀以上を経て、国内外の多くの研究者による研究の成果もあり、追加や微修正は必要とされるが、この研究書はなお他の追随を許さないケサル研究の金字塔であり、古典であり、出発点といえるだろう。
目次
まえがき
第1部 文献とその分類
第1章 問題の現状
叙事詩の参考文献
その他の参考文献
第2章 英雄叙事詩の起源
口伝本
木刻本と写本
絵画
第3章 物語の筋立てと分類 (場面と歴史の記憶)
古跡と歴史の記憶
古跡目録 (1)チベット西部 (2)チベット中央部 (3)チベット東部 T U V
(4)その他
分類
時系列の考証
筋立てのバリエーション
口伝本と写本
フランケ所有の写本
第2部 英雄たちの土地と名前
第4章 地理
日月山
ミニャク
ミニャク、ホルと雷
アチェンと北国
チショグとトム
マ国とリン国
パンとランとリン国
リン国の原始部族
第5章 リン国の歴史
カルマパ7世の活動
リン国のさまざまな首領
ほかのふたりのカルマパ
ケサル物語との関係
タントン・ギャルポ
デルゲの発展
リン国の没落
1400年以前(?)
13世紀
10世紀(?)
キョスロ(Kio-sseu-lo)とココノール(青海湖)の道
古代の追憶
第6章 フロム・ケサルからリン・ケサルへ
古代叙事詩断片
ミラレパ
ギャルポ・カタン(国王遺教)
ケサル物語との関係
ロンポ・カタン(大臣遺教)
四天子
四分法と三分法
四方と世界の王
アムドの民間伝説
よき人とよき馬
移動の主題
ケサルとテュルク人
ヴァイシュラヴァナ(毘沙門天)とホータン
ケサルとヴァイシュラヴァナ、そしてペハル
ペハルとミニャクとケサル物語
チベット北東部における物語の完成
リン国の王は世界の王
第3部 ケサル物語の構成と内容
第7章 相似するケサル詩人
(一)ケサル詩人の相似性
伝播を媒介するもの
吟唱の宗教的特性
霊感を受けた吟遊詩人
ケサル詩人の宗教的特性
相似する吟遊詩人
社会における役割
ケサル詩人と闘士と大道芸人
天職と修行
インスピレーションとトランス技法
ケサル詩人と喜劇役者
(二)帽子と杖
理想的な帽子
パドマサンバヴァの帽子
その他の類似性
ボン教徒とミラレパの弟子
ケサル詩人の実際の帽子
杖と鞭
ケサル王が競馬会のときに被った帽子
ケサル王物語を吟唱するときの帽子
(三)分析と比較
展望
シャーマンとの類似性
ケサル詩人の馬とシャーマンの馬
馬と帽子とミダスのテーマ
ラバ、ライオン、魔術的な馬
ケサル詩人と喜劇役者、猿とライオン
王冠
第8章 影響をもたらした民間起源
(一)古代
祭典
伝説と謎かけ
仏教伝説の翻訳
謎かけと吟唱の系譜
(二)現代の叙事詩
討論会と遊戯
新年、道化、カーニバルの王
獅子舞、劇、山の儀礼
聖地の春の祭典
秋、祭礼と聖なる山の伝説
創造の歌
(三)ケサル王物語関連
リン国の伝承
創造の物語
山の祭礼と英雄の誕生
第9章 ラマ教の状況
(一)詩人僧侶
ケサル王物語成立の下限
作者の背景
瘋癲僧
おどけるミラレパ
ドゥクパ・クンレーの歌
叙事詩の格調
修飾と比喩
シンボルの解釈
韻律
ミラレパ、大道芸人の守護神
聖職者の影響
(二)シンクレティズムの効能
神秘的なケサルの親族
英雄と叔父、また馬
叔父と甥のいさかい
劇の守護神、タントン・ギャルポ
タントン・ギャルポと北方
ケサル王物語の7人の屠殺人
儀礼中の同一人物
ラーマーヤナとケサル王物語
シンクレティズムの北方
シャンバラと英雄の馬
第10章 英雄の特徴
(一)馬、英雄の化身
親族の血縁関係
平行する運命
キャン(野生ロバ)、ロバ、馬、鳥
知恵
卑しい一面
竹馬
(二)英雄の卑しい外見
母親の放逐
醜悪と尊厳
ふざける疥癬もち
テュルク人、モンゴル人の領分
暗雲が立ち込める時期
アンビバランス
屈辱は栄光の保証
ボロボロの服を着るジョル
放逐と即位
悪魔と死者
聖者と道化師
悪魔との賭博
結論
スタン『チベットの叙事詩及び叙事詩人研究』の初版本。ケサル研究の古典。